環境問題の解決と同時に経済成長を目指す新しい考え方の「サーキュラー・エコノミー(循環型経済)」。グローバル化のうねりの中で、多くの企業にとってビジネスに直結する重要なキーワードです。今回は身近なパソコンを例に、弊社代表の近藤憲が「サーキュラー・エコノミー」についてご紹介します。
政府は新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言について、2020年5月25日に全国で解除することを発表しました。解除となりましたが、引き続き感染予防に十分配慮した上で、本撮影・インタビューを実施しております。
すべての企業のビジネスに関係する「サーキュラー・エコノミー」
「循環型経済」とも訳される「サーキュラー・エコノミー(Circular Economy)」は、資源の循環性を高め、環境負荷を下げることを目標とした考え方です。まだ耳慣れない言葉ですが、新聞やビジネス誌などで徐々に取り上げられる機会も増えています。
既に耳にしたことがある方は、「環境問題」に関連した用語と捉えているかもしれません。確かに「サーキュラー・エコノミー」は環境問題と切っても切れない関係にあります。
ただし、私は、「サーキュラー・エコノミー」を取り上げることで、「新しい環境ビジネスを始めよう」という話をしたいわけではありません。ここで紹介したいと考えた理由は少々別のところにあります。
「サーキュラー・エコノミー」は「環境問題の解決」だけを狙ったものではなく、みなさまが既に展開している多くの「ビジネス」、企業の規模や業種に関わらず多種多様なビジネスに直結するトピックです。そのため「サーキュラー・エコノミー」の考え方を理解することは、ビジネスパーソン、特に経営層にとって「武器」のひとつになり得ると考えています。
「サーキュラー・エコノミー」が注目されるようになった背景からお話しましょう。2015年9月の国連サミットで、持続可能(サステナブル)でより良い世界を目指す国際的な目標として「SDGs(Sustainable Development Goals = 持続可能な開発目標)」が採択されました。そこでは、貧困や飢餓の撲滅、平等、健康、福祉、教育をはじめとする人権保護、海洋資源の保護、クリーンエネルギーの利用など、2030年までに実現を目指すゴールが提示されました。
スウェーデンの環境活動家であるグレタ・トゥンベリさんをご存知の方も多いと思います。彼女が注目されていることが示す通り、世界全体で環境問題への声が大きくなっています。まさに「SDGs」にも「つくる責任、つかう責任」として環境問題が盛り込まれました。ここで注目すべきことは、環境問題と併せて生活の豊かさを重視し、「経済成長」も同時に目標に掲げられていたことです。
さらにEUでは、同じく2015年12月に循環型経済の実現に向けた「サーキュラー・エコノミー・パッケージ」を取りまとめました。ここでは、「サーキュラー・エコノミー」という言葉が使われていますが、「SDGs」と同じく「経済成長」が盛り込まれている点は注目に値します。
一見矛盾する「環境問題」と「経済成長」を同時に実現するこの考え方こそ、「サーキュラー・エコノミー」を読み解くカギと言えるでしょう。国連、EUというと非常に大きな話に聞こえるかもしれません。しかし海外では、既に「身近なビジネス」において、この考え方を生かし始めているのです。
「サーキュラー・エコノミー」は「リサイクル」なのか
「サーキュラー・エコノミー」という言葉や考え方は、以前に比べれば見聞きするようになったとはいえ、まだまだメディアで大きく取り上げられるケースは少なく、知名度はそれほど高くありません。
一方、類似する用語に「リサイクル」や「リユース」があります。こちらなら、ほぼすべての人がピンとくるのではないでしょうか。再資源化する「リサイクル」、資源を再利用する「リユース」、ゴミを減らす「リデュース」は、頭文字から「3R」と呼ばれています。国内でも2000年以降、政策が進められてきました。ゴミの分別など「リサイクル」はとても身近な存在です。
実はこの「リサイクル」も「サーキュラー・エコノミー」に含まれる要素のひとつなのです。日本では、以前から積極的に「リサイクル」などに取り組んできたため、「サーキュラー・エコノミー」のインパクトがやや薄れてしまったのかもしれません。
しかし「サーキュラー・エコノミー」が目指すものと、これまで国内で進められてきた「リサイクル」「リユース」では大きく異なる点があります。それは「サーキュラー・エコノミー」が「循環型」であるのに対し、従来の「リサイクル」「リユース」は、生産して消費する「リニア(直線型)エコノミー」と同じ流れです。「リサイクル」は再利用や資源の回収によって廃棄物の削減に寄与していますが、生産から消費まで直線的であり、あくまで廃棄物が出ることが前提となっていました。
それに対し、循環型である「サーキュラー・エコノミー」は、資源を循環させ、廃棄物を限りなくなくすことを目標に掲げています。欧州では、すでにオランダなどで政策として推進しているケースもあります。
くわえて「サーキュラー・エコノミー」には、「経済成長」が視野に入っている点が大きく異なります。
これまで「経済成長」と「環境保護」は相反する関係と捉えられることもありました。そのため、ビジネスにおいて「リサイクル」に取り組む場合であっても、経済的な利益のため、というより「社会貢献」や「コンプライアンス」の側面で捉えている方も多いのではないでしょうか。
一見矛盾するこれらを同時に実現することを目指す点で、「サーキュラー・エコノミー」は従来の「リサイクル」と次元が異なる考え方なのです。
見過ごされてきた「廃棄パソコン」の価値、再利用が生む企業競争力
「サーキュラー・エコノミー」の最終的な目標は、資源の循環ですが、実現は容易なものではありません。道半ばであり、いかにゴールに近づけるか、各企業が様々なアイデアを出し、進めている状況です。
EUの「サーキュラー・エコノミー・パッケージ」では、そのひとつとして修理やアップグレード、耐久性の向上など、機器を長期間にわたり効率よく活用することも戦略に盛り込まれました。
私たちの会社も従来の「リサイクル」や「リユース」の考え方をさらに一歩先に推し進めた「サーキュラー・エコノミー」に取り組んでいます。企業が利用するパソコンを例に考えてみましょう。
多くの企業では、リース契約などを通じて新品のパソコンを導入し、数年利用したらまた新たな端末に入れ替える、といった施策を繰り返しています。一旦役目を終えた機器はリース業者に返却され、廃品業者が回収し、再販事業者などの手に渡ります。
こうした従来の「リサイクル」「リユース」の流れを見ると、確かに機器は別の人の手に渡り、再利用されているようにも見えます。しかし、「本来持つ価値を十分引き出し、有効に活用されている」とは言いがたい状況にあります。
集められた使用済みの機器の多くは、データの消去など行われた後、整備されずにそのままの状態で流通しています。パソコンに関する知識が豊富な人ならば使いこなし、故障や不具合などにも対応できますが、一般的な企業や消費者が安心して利用できる状態とは言えません。日本国内で売れないと判断された場合は、海外に輸出されてしまいます。
しかし、昨今のパソコンは、数世代前の機種であっても高い演算能力を備えており、適切に整備すれば、ビジネスの現場でより長く活用できるのです。私たちの会社はこうした端末の再生に取り組んでいます。
発売から数年経過するとパソコンの動作が重いと感じるケースもあります。これは一部のパーツがボトルネックとなっていることも少なくありません。そこで最新のOSやアプリケーションがスムーズに動作するように、該当するパーツのアップグレードなどを行います。
さらに故障や不具合の原因となりやすい経年劣化した部品を交換。データをしっかりと削除して外装もクリーンに清掃すれば、再び一般事務など、ビジネスの現場で活躍する端末へと生まれ変わります。新品に比べて価格がリーズナブルであると同時に、安心して利用できるというわけです。
「サーキュラー・エコノミー」を通じて世界と戦う日本企業を支援
現在、「サーキュラー・エコノミー」の取り組みは海外が先行しており、積極的に企業の戦略に取り込んでいます。環境問題へ取り組む姿勢をアピールすると同時に資材調達コストの面でも競争力を得ているのです。
まさに「サーキュラー・エコノミー」は、グローバルや遠い未来の話ではなく、今日企業がビジネスで生き残る上で、コスト削減による生産性向上へとつながる重要な考え方のひとつではないでしょうか。
私たちは「BPO(ビジネスアウトソーシングプロセス)」としてみなさまを支えるため、これまで培ったノウハウを生かし、パソコンはもちろん、スマートフォンなど幅広い機器を、より高いパフォーマンスでご提供できるよう日々研究を重ねています。また保険などを組み合わせ、より安心してご利用できるサービスも準備しています。
ぜひこれを機会に「サーキュラー・エコノミー」に注目いただき、企業のビジネス戦略の強化を図っていただきたいと思います。
- 著者:近藤 憲
(こんどう・あきら) プロフィール
従来、処分・廃棄されることの多かった中古スマートフォン・PCのリユースを推進するため、中古IT機器の再生を専門とする当社を設立、代表取締役に就任。2019年にはBPOセンターを移転、増床するなど事業を拡大している。